スーツにはたくさんのポケットがあります。でも実はポケットにはできるだけモノを入れないほうが良いのです。「え?」というご意見もあるかもしれませんね。これだけたくさんポケットがあるのですから、使いたくなるお気持ちはわかります。しかし、ポケットに物が入っているのとそうでない状態では、後者の方が断然すっきりした美しいシルエットになるのも事実なのです。例えば、上着の内ポケットにぶ厚い財布などを入れると、襟の美しい返りが乱れてしまいます。下のポケットの場合は、重みで膨らんだりするので、全体のシルエットが崩れて、どこかしらだらしない印象を与えることにもなります。パンツのポケットに財布を入れてらっしゃる男性もよく見かけますが、ふとももの部分が膨らんだり、お尻が膨らんだりして、残念ながら脚が短く見えてしまいます。
昔の洋書に出ていたギンガムチェックのワンピース、レースの服、その頃観た映画のヒロインの服、新しいことを覚えられずポロポロ抜けていく分、そんな古い記憶がしっかりと蔓延っている。「『ヘッドライト』という映画でフランソワーズ・アルヌールが着ていたエナメルのコート、欲しくて何年か前に買ったのだけど捨てたのよ。今思うと惜しくて、また探しているの」同年配の知人がいった。それは捨てて良かったわよ、と思うものの口には出せない。彼女の郷愁心がうっとりした目に表れている。『ヘッドライト』のアルヌールは、実年齢こそ私達より上だけど当時は二〇代だもの、エナメルのコートは悪いけど彼女には似合わないんじゃないかな。といった類いのおしゃれの引きずり、他から見れば奇異に見えたりすることもある。例えばスーツで着ると昔っぽく見えるから、下のスカートを新調して微妙な色合わせを楽しむ。流行色のスカーフを組み合わせてみる。やはり、今、旬の輝きも欲しいから、盲点に陥らないように気をつけなければ。
百五十年間、基本的な形を変えなかったという偉業に敬意を表したうえで、やはりどうしても拭えない疑問が出てくる。なぜ、スーツの形は季節を問わず変わらないのか?日本の夏は耐え難いほどに蒸し暑い。だから、いくら「相手に対する礼儀」だからとはいえ、ネクタイをきっちり締めて首元の空気の流れを止め、長袖長ズボンで身体を覆い尽くすフル装備ハットでも合理的な服装とはいえない。いくら最新テクノロジーを駆使した涼感繊維で作られていようと、シャツにジャケットという長袖の重ね着に加えて、首元のネクタイ締めには我慢の限界があろうというものだ。いやでも室内の冷房温度を下げねばならなくなる。そうすれば、薄着の女性にとばっちりが及ぶうえ、環境にも決してよろしくない。したがって当然、改革の声が上がる。往々にして、服装改革を身をもって実践するのは各界のトップの方々である。